長期投資でFIREを目指す

FIRE達成に向けた目標資産額の算出と逆算アプローチ:高所得者のためのロードマップ策定

Tags: FIRE, 資産形成, 逆算アプローチ, 目標設定, 高所得者, 投資戦略

はじめに

FIRE(Financial Independence, Retire Early)は、経済的自立を達成し、早期リタイアを実現するというライフスタイルです。FIREを目指す上で最も重要なステップの一つが、具体的な目標資産額を設定すること、そしてその目標に向かって効率的に進むためのロードマップを逆算アプローチで策定することです。

特に多忙な高所得者の方々にとって、限られた時間を最大限に活用し、効率的に資産形成を進めるためには、精緻な目標設定と計画的な実行が不可欠です。本稿では、FIRE達成に向けた目標資産額の具体的な算出方法と、高所得者の特性を活かした逆算アプローチによるロードマップ策定の考え方について解説します。

1. FIRE目標資産額の基本的な算出方法

FIRE達成後の生活を維持するために必要な資産額は、一般的に「FIRE後の年間支出額」と「安全な資産取り崩し率」に基づいて算出されます。

基本的な計算式は以下の通りです。

目標資産額 = FIRE後の年間支出額 ÷ 安全な資産取り崩し率

1.1. FIRE後の年間支出額の見積もり

まずは、FIRE後の生活で必要となる年間支出額を具体的に見積もります。現時点の支出を参考にしつつ、FIRE後のライフスタイル(例:住居費、旅行、趣味、保険、税金など)の変化を考慮して調整します。

1.2. 安全な資産取り崩し率(Safe Withdrawal Rate, SWR)

安全な資産取り崩し率とは、ポートフォリオを枯渇させることなく、理論上永続的に資産から引き出せる年間比率のことです。最も広く参照されるのは、トリニティスタディで示された「4%ルール」です。これは、適切に分散されたポートフォリオであれば、毎年資産の4%を取り崩しても、多くの場合30年以上にわたって資産が持続するという研究結果に基づいています。

2. 高所得者のための逆算アプローチによるロードマップ策定

目標資産額が定まったら、次に「いつまでに」「どのように」その目標を達成するかというロードマップを逆算アプローチで策定します。高所得者の方々は、高い収入と貯蓄率を活かせるため、より効率的な計画が可能です。

2.1. 目標達成までの年数と必要貯蓄額の算出

現在の年齢、目標とするFIRE年齢、現在の資産額、将来の年間収入(あるいは貯蓄に回せる額)、想定投資リターン率を設定し、目標資産額を達成するために必要な年間貯蓄額や投資額を算出します。

目標資産額 = (現在の資産額 + 年間貯蓄額 × 積立年数) × (1 + 想定投資リターン率) ^ 積立年数

この式を変形するか、金融電卓やスプレッドシートを用いて、目標とするFIRE年齢までに必要な年間貯蓄額を計算します。

例えば、以下の条件を設定します。

この場合、10年後に2億円を達成するために必要な年間投資額(貯蓄に回す額)を逆算します。

シミュレーションツール等を用いると、この条件で目標達成するためには、現在の資産額5,000万円に加えて、年間約950万円を10年間、年利5%で運用する必要があることがわかります。

import numpy as np

# 目標資産額 (円)
target_asset = 200000000
# 現在の資産額 (円)
current_asset = 50000000
# 積立年数
years = 10
# 想定投資リターン率 (年率)
annual_return_rate = 0.05

# 目標達成に必要な将来価値の差額
future_value_needed = target_asset

# 現在の資産の将来価値を引く
future_value_needed -= current_asset * (1 + annual_return_rate)**years

# 必要な年間積立額を計算 (年金終価係数の逆数を利用)
# FV = PMT * [((1 + r)^n - 1) / r]
# PMT = FV / [((1 + r)^n - 1) / r]
if annual_return_rate == 0:
    required_annual_saving = future_value_needed / years
else:
    required_annual_saving = future_value_needed / (((1 + annual_return_rate)**years - 1) / annual_return_rate)

print(f"目標資産額 {target_asset:,.0f} 円を {years} 年後に達成するには、現在の資産 {current_asset:,.0f} 円に加えて、年間約 {required_annual_saving:,.0f} 円を積立投資する必要があります。")

この計算結果に基づき、現実的に達成可能な年間貯蓄額を判断します。高所得者の場合、高い貯蓄率を実現しやすいため、短い期間でのFIREも現実的な選択肢となり得ます。

2.2. ロードマップの要素と管理

逆算によって明らかになった年間貯蓄額・投資額を、具体的な行動計画に落とし込みます。

2.3. 高所得者ならではの考慮点

高所得者は、一般的なFIRE目標達成者とは異なる視点を持つ必要があります。

3. 定期的な見直しと計画の修正

一度策定したロードマップも、時間経過とともに見直しが必要です。

これらの変化に対応するため、少なくとも年1回は目標資産額、 FIRE時期、年間貯蓄額、投資戦略を見直し、必要に応じて計画を修正します。逆算アプローチは、単なる一度きりの計算ではなく、目標達成までの道のりを継続的に管理するためのツールとして機能します。

まとめ

FIRE達成のための目標資産額算出と逆算アプローチは、漠然とした願望を具体的な計画に変えるための強力な手法です。特に高所得者の方々にとっては、高い収入と貯蓄率を最大限に活かし、効率的に目標を達成するための羅針盤となります。

本稿で解説した基本的な算出方法に加え、ご自身のライフスタイル、リスク許容度、そして高所得者ならではの税務や資産構成の複雑さを考慮に入れ、オーダーメイドのロードマップを策定することが成功の鍵です。定期的な進捗確認と計画の見直しを行いながら、着実にFIREという目標へ向かって歩みを進めてください。